個人事業主から法人化するメリット・デメリット
皆さんこんにちは 長崎県佐世保市にある経営コンサルティング会社 翔彩サポートです。
法人成りとはどういうことかという基本的な部分から、法人成りのメリット・デメリットを見ていきます。
法人成りとは?
よく個人事業主の方同士で「結構儲かってきたから、法人成りした方が良いかな」という声を聞いたことがある人もいるかと思います。
そもそも法人成りとは、具体的にどういう状況を言うのでしょうか?
簡単に言うと「個人事業主が、自身が代表取締役・代表社員となり、株式会社・合同会社などを設立して、事業・資産・売上・債務などを移行する」ということです。
通常の会社設立と法人成りが異なるのは、「既に実績・信頼がある」というアドバンテージです。
「ゼロからいきなり会社設立」ではなく、「個人事業としてやってきて規模が大きくなったから、会社設立をしよう」ということで、既に個人で事業をある程度事業実績を積んでいる、軌道に乗せているという実績は、起業後信頼を勝ち取るための大きな助けとなります。
それでは、法人成りすることで、何が変わり、どういうメリット、デメリットがあるのでしょうか。
法人成りするメリット
法人成りすることによって受けられるメリットはいくつもあります。
- 社会的信頼の向上
- 企業取引の円滑化
- 税負担の軽減
- 役員報酬を支給し、報酬部分を損金に計上することで節税ができる
- 節税策が個人事業より多い
- 新設法人は、消費税が最高2年免税となるケースがある
- 補助金・助成金を活用しやすくなる
- 代表取締役個人と会社の経営責任を分離することができる
- 赤字の繰越は法人10年、個人事業3年(青色申告の場合。)
社会的信頼の向上
以前は、株式会社の設立には1,000万円以上の資本金、有限会社の設立には300万円以上の資本金が必要でした。しかし2005年の最低資本金制度の撤廃・2006年の会社法施行により、株式会社は1円の資本金から設立できるようになりました。
個人事業主と会社の社長(代表取締役)という立場では、様々な方面からの社会的評価が異なります。
これは、会社勤めの人・年配の人のリアクション非常に良くある傾向です。
社会的に信用されるようになると、個人事業主として事業を行っていた場合より、新規取引先を獲得することや取引金額を増やす機会が増えます。
中には、個人事業主との取引を制限し、法人としか取引しない会社もありますが、そのような制限を受けることもありません。
また、社会的信用が高まると、銀行からの融資も受けやすくなり、さらに事業を発展させることも視野に入るでしょう。
企業取引の円滑化
企業、特に歴史のある大企業や昔ながらの企業ほど、個人事業主との取引はNGという会社が複数存在します。
もちろん、個人事業主でも取引をしてくれる大企業も多いですが、法人と個人事業主の場合では、法人の方が様々な意味で信頼を得やすいと言えます。
税負担の軽減
個人事業主から法人成りをする場合には、税負担を基準に法人化を検討する方が多いでしょう。
個人事業主で出ていた利益からすると、法人成りによって利益に対する税金を少なく抑えることができます。
これは、法人に対して課される法人税と、個人に対して課される所得税の税率の違いによるものです。
法人税の最高税率は23.2%となっていますが、所得税の最高税率は45%となっており、所得が大きくなると税負担も大きくなります。
利益の金額が大きくなるほど節税効果が大きくなることから、法人化のメリットはより大きくなります。
また、法人でしか活用できない節税もあるため、税金対策の面では法人が有利になります。
役員報酬を支給し、報酬部分を損金に計上することで節税ができる
個人事業主は、事業とプライベートの財布が実質的に一緒のことが多いことに対し、法人化していれば、毎月報酬額として一定金額を一年のはじめに決める必要がありますが、役員報酬として損金に算入することができます。
節税策が個人事業より多い
個人事業主の節税対策と言えば、小規模企業共済やふるさと納税、倒産防止共済などが王道でしょう。
それ以外に考えられるものがあっても、大きな額を経費として算入できるケースは少ないです。
法人では、生命保険として加入した保険料が経費になったり、社宅家賃を活用した節税策、役員への退職金が経費になります。
個人事業で経費になるものは、基本的には法人でも経費になります。法人では個人事業では経費として算入できなかったものが経費になることが多いのです。
新設法人は、消費税が最高2年免税となるケースがある
個人事業主として2年間の消費税免税特典を享受した場合でも、法人成り後に、新設法人の免税特典を享受することができます。
ただし、資本金が1,000万円以上、前年の上半期の売上が1,000万円を超えるケースなど、消費税免税の適用除外のケースもあります。
しかし、インボイス制度の導入により取引相手が企業の場合ではメリットを受けられないケースがほとんどです。
補助金・助成金を活用しやすくなる
現在国・地方自治体が行っている助成制度は、基本的に法人を対象としたものが多いです。
もちろん、個人事業主を対象としたものもありますが、補助金・助成金の場合、設備投資・人の雇用、企業誘致など大きなお金が動くものが多いため、必然的に法人が対象となってくるケースの助成金・補助金が多くなります。
代表取締役個人と会社の経営責任を分離することができる
個人事業の場合は、事業で生じた赤字は個人の負担です。
一方、法人の場合は、個人と法人が分けて考えられますので、法人の赤字は法人の赤字、法人の責任は法人の責任です。
近年の事業承継や会社のスムースな廃業の必要性をすすめるために、「経営者保証に関するガイドライン」という制度が積極的に活用されるようになりました。
平成25年に金融庁が、「会社に万一のことがあっても、経営者保証ガイドラインに沿った状況で処理を行うのであれば、経営者個人の信用情報にマイナスのデータを残さない、華美でなければ自宅や車・財産も残していい」という、経営者の算入・撤退リスクを極力少なくするガイドラインをつくりました。
また、ガイドラインでは、経営者本人も含めた、人的保証に頼らない融資の促進を強調しています。
赤字の繰越は法人10年、個人事業3年
法人化することで、赤字を最大で10年間繰り越すことで節税できます。
個人事業主の赤字の繰り越し期間が3年間なのに対して、法人は最大10年間繰り越すことができます。
飲食店などの人材を多く雇い入れることで当初の経費が多くかかるビジネスにおいては、この赤字繰越を上手く利用することで税金を抑えることができます。
法人成りするデメリット
個人事業主が法人化するデメリットを紹介します。
今まで節税という観点から、法人化することに前向きな主張をしてまいりました。
確かに課税所得800万円を境に、所得税よりも法人税の方が納める税額は少なくなるでしょう。
しかし、節税という観点だけを考えて法人化することを決断するのは早すぎます。
- 設立費用がかかる
- プライベートで使えるお金が制限される
- 社会保険への加入
- 赤字でも税金がかかる
- 事務負担が増加する
設立費用がかかる
個人事業主として事業を始める場合には、税務署と都道府県に開業届を提出するだけで、手数料などはかかりません。
しかし、法人化するためには国などに対して一定額の法定費用を納める必要があり、その金額は会社の形態によっても異なりますが、約10-24万円程度と高額です。
設立費用はスポットでかかる費用であるとはいえ、高額な出費です。
法人化を検討する際は、設立費用を捻出することができるか、事前に確認が必要です。
プライベートで使えるお金が制限される
法人化することで、プライベートで使えるお金に制限がかかります。
法人のお金は、法人のものであり、社長個人のプライベートの費用を法人の経費とすることはできません。プライベートで使用するためには、役員報酬として社長個人に給与として支出してからということになります。
そのため、法人税法上、社長に支払われる役員報酬には、以下の制約を受けます。
- 1回決めた役員報酬の金額は、原則として1年間変えられない
- 会社設立から3ヶ月以内に当期の報酬金額を決定しないと、役員報酬を経費に計上できない
- 役員賞与を支払う際は、会社設立から2ヶ月以内に税務署に届け出る必要がある
社会保険への加入
法人を設立した場合は、社会保険に加入する必要があります。
個人事業主の場合は国民健康保険に加入していることと思いますが、法人化した場合は従業員の数に関わらず、社会保険へ加入しなければなりません。
社会保険料の法人負担額は概算になりますが、1.2倍かかることを頭に入れておいてください。
赤字でも税金がかかる
法人化した場合、赤字でも税金がかかります。
個人事業主の場合は1年間の儲けがマイナスの場合には所得税がかかりませんが、法人の場合は儲けがマイナスでも最低限、年間約7万円の法人住民税が課税されます。
事務負担が増加する
法人化した場合、経理業務などの事務負担が増加します。
- 税制優遇制度を活用するために、適切な会計帳簿を作成する必要がある
- 社長個人のお財布・法人の財布を明確に区分して管理する必要がある
- 税務署や法務局への届出が増える
法人成りする最適なタイミングとは?
ここまで、法人成りのメリット・デメリットを挙げてきました。
法人化にはいい点、注意点があれど、やはりある程度の事業規模になれば、法人化を視野に入れるのが自然な流れかと言えます。
それでは、いつが法人成りの最適なタイミングなのでしょうか?
法人成りを行うタイミングでは、売上や利益は重要視する項目ではありますが、時期も大切にしてください。
たった一年、売上や利益が伸びた翌年にそのままの流れで法人成りをするのは危険です。業績を維持・右肩上がりに伸ばしていくのは簡単なことではありません。事業体として、その基盤ができていますか?
私のクライアントで、その流れで法人成りをしたところがありましたが、2年後に個人事業へ戻りました。
当時、「来年も同じように利益がでたらとんでもない税金を納めることになるのは絶対に避けたい」ということで法人成りに対して積極的な代表者に対し、猛烈なストップをかけていた私。
法人成りに対して消極的だった私の心は、「基盤が緩い状態での法人成りは失敗する」と思っていたからです。
その会社の基盤が緩い理由は2つ。
1つ目は、売上先(得意先)が1社のみであり、その会社から見放されたときに連鎖倒産の可能性が非常に高かったこと。
2つ目は、社員教育が不十分であり、現場でもクレームが多発していたことでした。
上記2つをクリアすれば基盤が強化されるかというと、そうとはいえませんが、あまりにも脆い体制だったからこそストップをかけました。
しかし、経営者の方には聞く耳をもってもらえず、法人成りをしました。
言わなくてもわかるかもしれませんが、その後は売上と利益が思うように伸びず、法人成りしたことでのメリットはほとんど受けられていません。
法人成りによって資金使途の制限がかかってしまい、法人から個人へお金を貸し付ける(役員貸付金)が増えてしまいました。第三者(金融機関)からの評価は低くなる一方です。
このようなケースにならないように、ただ売上が伸びたから、利益が伸びたからといって法人成りをすることはやめましょう。
まとめ
法人成りは受けられるメリットが多いですが、経営状況によって大きく左右されるものです。
法人成りの最適なタイミングやシミュレーションをしてみたい方は、ぜひ翔彩サポートまでご相談ください。
監修者情報

経営コンサルタント 翔彩サポート 代表 広瀬祐樹
【経営分析×経営アドバイス×財務管理】による永続的に繁栄する経営体制を支援。
経営について悩んでいることがあれば、どんなことでも構いません。お気軽にご相談ください。